谷川流の暗号 - 「学校を出よう!」に秘められた阪神・淡路大震災からの復旧の記録

学校を出よう!―Escape from The School (電撃文庫)

学校を出よう!―Escape from The School (電撃文庫)

学校を出よう!〈2〉I‐My‐Me (電撃文庫)

学校を出よう!〈2〉I‐My‐Me (電撃文庫)

学校を出よう!〈4〉Final Destination (電撃文庫)

学校を出よう!〈4〉Final Destination (電撃文庫)

  • はじめに

谷川流さん著、電撃文庫刊「学校を出よう!」シリーズにおけるキャラクターの移動が、阪神・淡路大震災後の鉄道路線復旧を反映して書かれているのではないかという仮説を披露いたします。

ただし、仮説の根拠を逐一説明していきますと大変膨大な文量になってしまうため、今回はかなりはしょります。詳しい根拠については、可能であれば、追って発表していきたいと思います(できるかなぁ……汗)。

  • 概要

学校を出よう!」シリーズは2012年7月現在で1〜6巻が刊行されています。このうち1巻、2巻、4巻で、キャラクターが鉄道を使って移動する展開があります。しかし具体的な地名・駅名は作中に出てきません。また、何月何日であるかは、1巻が5月20日頃、2巻が6月10〜13日、4巻が8月半ばであることが作中で描写されていますが、具体的な年までは書かれていません。

ここでは、谷川流さんが西宮市出身で、阪神・淡路大震災の被災した経験があることを踏まえて、

    • 1巻、2巻、4巻における鉄道による移動は、すべて兵庫県の西宮が出発点で、神戸が終着点である。
    • 作中の時間は1995年、すなわち阪神・淡路大震災が発生した年がモデルである。
    • 1巻、2巻、4巻における鉄道による移動は、1995年1月の震災で運休した西宮〜神戸間の鉄道が5月→6月→8月と復旧していく様子を暗示している。

と仮定し、作中のキャラクターの移動経路に当てはめてみます。

最初に、阪神・淡路大震災直前における、西宮〜神戸間の鉄道路線について簡単に説明いたします。

西宮〜神戸間には、JR神戸線阪急神戸線阪神本線が通っています。ちょっと分りにくいですが、神戸市街地の中心は「三宮」駅です。阪急と阪神神戸高速鉄道東西線を介して山陽電鉄本線と直通運転を行っています。

震災後、1995年5月20日頃の西宮〜神戸間の鉄道は次のようになっていました。

JR、阪急、阪神神戸高速鉄道山陽電鉄は震災時にすべて運休しましたが、5月20日頃の時点ではJRのみが全線復旧していました。

この路線図に、1巻中盤での高崎兄妹の推定移動経路を重ねてみます。

高崎兄妹は1つの路線を使って移動していると記述されています。よって唯一全線復旧しているJRを使ったものと推定します。

高崎兄妹は最終的に陥没した交差点を目撃するのですが、その交差点は、地下式駅の陥没により長期運休した神戸高速鉄道東西線大開駅がモデルであると仮定します。大開駅は1995年5月20日頃、復旧工事のために駅の上に位置する交差点から開削している状態でした。高崎兄妹は大開駅にはJRの兵庫駅から歩いて行ったのでしょう。

つまり、1巻における高崎兄妹の移動は、

    • JRのみが全線復旧しており、阪急・阪神はまだ全線復旧していない。
    • 神戸高速鉄道東西線はとりわけ大きな復旧工事を行っている。

ことを暗示していると考えます。

  • 2巻(6月10〜13日)

2巻の前半に相当すると考えられる、1995年6月10日〜11日の段階でも、阪急・阪神はまだ全線復旧していません。

この路線図に、6月11日の神田Aと神田Nの推定移動経路を重ねてみます。

神田Aが最初に向かう、音透湖の実家がある街は、芦屋であると考えられます。阪急では西宮北口駅から芦屋川駅へ行けないので、今津駅で乗り換えて阪神を使います。
また、神田Aが神田Nを目撃する「乗り継ぎの駅」は、阪神西宮駅であると仮定します。

以前、私はこの「乗り継ぎの駅」は今津駅であるという仮説を出していました。しかし現在は阪神西宮駅である可能性が高いと考えています。
その理由は次の描写です。

神田Nが待っているらしい電車は、自宅のある町とは反対方向へ行くものだった。各駅停車でここまで来て、急行に乗り換え待ちか、神田A自身、あまり出かけることのない方角だ。都市部とも逆方向だし、遊びに行くようなところもあまりなかった。ああ、海があるから夏には海老原姉妹に連れられて行ったっけ。

谷川流学校を出よう!」2巻122ページ

神田Nは今津駅で阪神に乗ります。今津駅は1995年当時、各駅停車以外はほとんど停まりませんでした。よってある程度遠くに行くためにはどこかで特急・急行等の優等列車に乗り継ぐのが便利なのですが、今津駅から西へ行くのであればその乗り継ぎ駅は西宮駅になります。
またここでいう「海」とは、阪神地区で数少ない海水浴場である「須磨海岸」であると考えます。平時の場合、須磨海岸に行くためには、西宮駅から優等列車に乗り継いで、神戸高速鉄道東西線を経由し、山陽電鉄本線山陽須磨駅を利用するのが便利だからです。そして「海があるから夏には海老原姉妹に連れられて行く」のは、実はこの後で紹介する4巻での伏線となっているのです。

この後、神田Nが向かうのは、当時の阪神の終着駅、御影駅ではないかと考えています(ここはちょっとまだ自信なし)。

一方、1995年6月12日に、阪急の西宮北口駅〜夙川駅間が復旧し、阪急で西宮から神戸へ行けるようになります。

6月13日に神田A・Bと星名サナエは西宮から神戸港へ行きますが、当然、阪急を使って行くと考えられます。

つまり、2巻における神田とサナエの移動は、

    • 阪急が全線復旧した。
    • 阪神はまだ全線復旧していない。

を暗示していると考えます。

  • 4巻(8月半ば)

1995年8月13日、陥没した大開駅を通過すると言う形ではありますが、神戸高速鉄道東西線は全線復旧します。(これに先立ち、山陽電鉄は6月18日に、阪神は6月26日に全線復旧しています。)

これにより、ついに阪急・阪神神戸高速鉄道山陽電鉄が繋がりました。

上の路線図に4巻終盤の高崎兄妹と、神田・海老原姉妹の推定移動経路を重ねてみます。

高崎兄妹は阪神電車の各駅停車に乗った後、わずかな間だけ、神田・海老原姉妹と思われる3人とニアミスします。

列車が次の駅に停まった。仲の良さそうな三人が真っ先にホームへ降りていく。

谷川流学校を出よう!」4巻282ページ

このシーン。まさに2巻で神田Aが回想していた「海があるから夏には海老原姉妹に連れられて行く」の再現です。すなわち、3人はこの駅、阪神西宮駅で改札を出るのではなく、各駅停車から優等列車に乗り換えるのです。そして神戸高速鉄道東西線を経由して山陽電鉄本線山陽須磨駅まで乗り、須磨海岸に泳ぎに行くのです。

一方の高崎兄妹は阪神の各駅停車に乗ったまま神戸港へ向かうのですが、これは2巻で神田・サナエが阪急を使って向かった先と同じとなっています。

つまり、4巻における高崎兄妹と神田・海老原姉妹の移動は、

を暗示していると考えます。

  • まとめ

1巻、2巻、4巻で暗示されていると仮定していることを、路線別にまとめてみます。

とりわけ、1巻で高崎兄妹が神戸高速鉄道東西線の復旧作業を見て、2巻で神田健一郎が「神戸高速鉄道東西線を使って海老原姉妹と海に行くこと」を回想するという伏線が、4巻で『「神田・海老原姉妹が海に行くところ」を高崎兄が見守る』という形で回収される点は、実に見事としか言いようがありません。

もちろんそれは、上記の仮説が当たっていれば、の話ではあるのですが。