あのダウナー系作家が帰ってきた(か?)

 スーパーダッシュ文庫の2006年1月以降の新刊予定

陰陽師式神を使わない」 藤原 京 イラスト/藤城 陽

という情報が載りました。同姓同名の別人物でない限り、1990年代半ばに集英社スーパーファンタジー文庫で暗黒の電波を振りまいていた藤原京さんの7年半ぶりの新刊です。ちなみに「ふじわらたかし」さん、と読みます。

 藤原京さんと言えば、私が真っ先に思い出すのが

ストリートファイターII -RYU vs. よみがえる藤原京-

ストリートファイターII -RYU vs. よみがえる藤原京-

じゃなかった

フロリカ―時の鎖 (集英社スーパーファンタジー文庫)

フロリカ―時の鎖 (集英社スーパーファンタジー文庫)

「フロリカ」ですね。「ブギーポップは笑わない」より3年以上前に、視点及び時間進行の切替えを多用していた作品です。文芸やSFではこうした実験的な試みはもっと以前からあったのでしょうが、ライトノベルでは「フロリカ」より古いものを私は知りません。

 また「兇刃」や「骨喰島」

兇刃 (集英社スーパーファンタジー文庫)

兇刃 (集英社スーパーファンタジー文庫)

骨喰島 (集英社スーパーファンタジー文庫)

骨喰島 (集英社スーパーファンタジー文庫)

では、ファンタジーとミステリーの両立に果敢に挑戦しています。

 この「視点及び時間進行の切替え」やファンタジー+ミステリー路線というのは、藤原京さんの数年後に上遠野浩平さんが歩んでヒットさせた道なのですが、はい、そうですね、藤原京さんの作品と上遠野浩平さんの作品は似ていると思います。登場人物の心理を階層的に表現しているというか、登場人物が自分自身を内面から見ているかと思えば次のシーンでは自分を突き放して外から観察しているみたいなところが。

 ただし藤原京さんの作品からは「青春」がすっぽり抜け落ちていますが。

 藤原京さんの作品は、読むと妙に気分が荒むのです。なんかもー「理解?希望?それらは概念としては存在するが、僕は実物を見たことがない」みたいな。もうちょっと前を向こうよ〜と思うのですが、しかしこのネガティブさにやけに作者の実感がこもっていて、ハマると病みつきになります。このダウナー系には常習性があるのです。幸か不幸か、当時あまりハマった方は多くなかったようですが。

 「ブギーポップ」で現在ライトノベルと呼ばれる作品群の傾向を変えることに成功した上遠野浩平さんを「陽」とするなら、藤原京さんは見事に失敗して忘れ去られた「陰」の人ですね。

 新作が無事に出ることを祈っています。