「朝比奈ミクルの冒険」における3つのレイヤーと原作・アニメ版での受容順序の違い
すでにMOONPHASE雑記さんやニッポニアニッポンの日記さんでもほぼ同じことを言及されていますが、自分で整理するためのメモ。いまさらではありますが。
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「涼宮ハルヒの動揺」収録の短編であり、TVアニメ版の初話になった「朝比奈ミクルの冒険」は劇中劇という典型的なメタ・フィクションです。そもそも「涼宮ハルヒ」シリーズ自体がメタな構造を持っているのですが、「朝比奈ミクルの冒険」はその中でさらにメタな構造を持っています。
劇中劇の中で長門有希は「長門ユキという宇宙人」を、朝比奈みくるは「朝比奈ミクルという未来人」を、古泉一樹は「古泉イツキという超能力者」を演じています。彼らは日常では「ただの人間」です。しかし実はその「ただの人間」も演じている姿に過ぎず、彼らは本当は宇宙人と未来人と超能力者な訳です。
このため「朝比奈ミクルの冒険」には少なくとも次の3つのレイヤー(層)が存在します。
レイヤー | 長門有希 | 朝比奈みくる | 古泉一樹 |
---|---|---|---|
劇中劇レイヤー | 宇宙人 | 未来人 | 超能力者 |
日常レイヤー | ただの人間 | ただの人間 | ただの人間 |
真相レイヤー | 宇宙人 | 未来人 | 超能力者 |
こうした倒立というか転倒というかセルフパロディ的なおかしさが、原作者の谷川流さんが執筆時に狙ったことの一つだったと考えられます。語り手であるキョンは3層のレイヤーを認識していますし、読者ももちろん認識できます。語り手のキョンも読者も既に原作1巻の「憂鬱」エピソードで「真相レイヤー」と「日常レイヤー」を知っており、その上で「劇中劇レイヤー」を読んでいたのです。
- ところがTVアニメ版は
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しかしTVアニメ版では「憂鬱」エピソードの前に、いきなり初話に「朝比奈ミクルの冒険」が放映されました。このため原作未読でTVアニメ版から入った人は、まず最初に何も知らされずに「劇中劇レイヤー」だけを見せられることになりました。そして初話のラストで「日常レイヤー」を、それに続く本編で「真相レイヤー」を知らされることになったのです。
私は原作既読だったので「劇中劇レイヤー→日常レイヤー→真相レイヤー」という二段落としを経験できなかったのですが、TVアニメ版から入られた人には少々刺激が強かったのではないでしょうか。
- 原作では伏線でないものがTVアニメ版では伏線になった
TVアニメ版「朝比奈ミクルの冒険」は放映当初は賛否両論あったものの、結局は高い評価を得ることになりました。これには素人製作っぽさを丁寧に表現したこともあるでしょうが、その後に放映された本編と合わせることで
からであるという解釈もできると考えます。MOONPHASE雑記さんでも言われていますが「本来ならば伏線でも何でもないことを、順番を入れ替えて強引に伏線にしてしまった」のです。