「2008年下半期ライトノベル萌杯」に投票いたします

【08下期ラ萌投票/新規/9784758040228/蘇芳さん】

女帝・龍凰院麟音の初恋 (一迅社文庫)

女帝・龍凰院麟音の初恋 (一迅社文庫)

 1票のみ、「女帝・龍凰院麟音の初恋」シリーズのメイド長「蘇芳さん」に投票します。*1

 この蘇芳さん、脇役ですが、非常に良い味を出しているキャラクターだと思います。まず

    • 戦闘メイド
    • 無表情

という点でありますが、これだけではありがちな類型キャラに過ぎません*2。そもそも「無表情」も「戦闘」もメイドの必須条件ではありません。しかし蘇芳さんは

    • メイドとしての家事能力もちゃんと高い

ここが「重要な点その1」です。無論「どじっ子」なメイドも形としてはありなのですが、それはメイド文化に対するカウンターであって、本来メイドは家事能力があるのがデフォルトなのです。そして高い能力を持ちながら

    • 私利私欲に走らない

これが「重要な点その2」です。蘇芳さんほどの情報収集能力と戦闘能力をもっていれば、シリーズの主役に躍り出ることも十分可能と思われるにも関わらず、敢えて脇役、裏方に回る。その仕事人としてのプロ意識に惹かれます。

 そして「重要な点その3」

    • 主君への行き過ぎた忠誠心

 沈着冷静な蘇芳さんが、主君・麟音のことになると明らかに判断を誤って常軌を逸した言動に走る。しかも本人に自覚無し。これがまた素晴らしいのであります。


 ライトノベルでは現実の人間より極端にキャラクターが造形されます。あるキャラクターは激しく自己主張し、またあるキャラクターはその反動のように盲目的に主人に忠誠を誓い、奉仕します。「蘇芳さん」は後者のタイプですが、その徹底的な忠誠心からは、滑稽さと不気味さがうまくブレンドされて漂ってくるのであります。

 現実には蘇芳さんのような人間はいないかも知れません。が、フィクション内では存在が許され、そしてその存在から滑稽とも不気味ともつかない妙な味わいが出る訳であり、これこそが荒唐無稽な作り話を読む時の醍醐味ではないか、などとつらつらと考えているのであります(考えるようなことか)。

*1:キャラクター名が「蘇芳」なのか「蘇芳さん」なのか悩むところですが、2巻の登場人物紹介では「蘇芳さん」になっているので、それに従います。

*2:ただし形から入ることもまた重要