王子様はお姫様にキスをしたのか?−「箇条書きマジックとは?」で注意すべきと考える点
忙しい人のための簡略「提言騒動」話-「箇条書きマジック」とは?
http://kuroneko-y.hp.infoseek.co.jp/kajogaki.html
最初に書いておきますと、私は上記サイトさん「箇条書きマジックとは?」の結論
箇条書きで設定等の類似点を並べるのは、上の例を見ていただければお分かりのように、盗作を検証する上では判断を誤らせる非常に危険な行為です。ご注意下さい。
には賛成いたします。こういうミスリーディングな技術は多分あるのでしょう。
と、断っておきまして、一方で上記サイトさんの「眠れる森の美女」「白雪姫」を例にした説明には疑問を感じるのです。私は上記サイトさんで挙げられている「眠れる森の美女」「白雪姫」の類似点を用いた説明について次の様に考えます。
- 「眠れる森の美女」「白雪姫」のような口承童話で類似点を「盗作」と感じるかどうかを説明するのは適切ではない。
- 類似点から物語のパターンを読み取ろうとする作業自体は積極的にやるべき。
- 「眠れる森の美女」「白雪姫」は似ている部分があったが、近現代の改変により益々似てしまった。
1.口承童話に真似も盗作もないのでは
上記サイトさんでは
この二つの物語を読んだとき、どちらかがどちらかを「真似した」とか、「盗作だ」とか思ったことのある人は、おそらくいないでしょう。
しかし、上のように類似点のみを箇条書きで抜き出すと、恐ろしく二つの物語は似ているように感じてしまいます。
と書かれています。
とはいえ、「眠れる森の美女」と「白雪姫」が「お姫様が長期間眠っているところに王子様がやってきて、お姫様が目覚める」といういわゆる「眠り姫」のパターンを共通して持っていることは事実でしょう。このことを「真似した」「盗作だ」と思わないのは、
- 「眠れる森の美女」も「白雪姫」も、もともと口承の童話で、明確な作者がいない。
- 「眠り姫」のパターンは1000年以上前の神話でもみられるもので、今さら誰のオリジナルというものではなく、誰でも使えるお約束である。
からだと考えます。*1
2.物語のパターンを認識することは積極的にやるべき
上記サイトさんも、類似点を並べることが危険なのは
盗作を検証する上で
と条件を限定されていますが、強調しておきたいです。
重箱の隅を突つくような類似点の列挙で「真似した」「盗作だ」というのはダメダメですけれども、複数の作品を横断的に見て、類似点からパターンを認識することは否定されるべきではない、もしろ積極的にやるべきだと考えます。(というか程度の問題であって誰でもやっていることだと思います。)そうすることで、ただ作品を読むだけでは得られないことが見つかることがあります。
たとえば手前味噌ですが、私は以前に「英雄譚の末裔」というコラムを書いたことがあります。ここでの持論は「ゴクドーくん漫遊記」と「スクラップド・プリンセス」は実は同じ古典的英雄譚のパターンに沿ってストーリーが展開されている、というものなのですが、こういうのって面白いと思いません?
思わないですか。そうですか……。orz
3.昔の王子様はお姫様にキスしていない
「王子様のキス」というのは、今では「眠っていたお姫様が目覚める」際の黄金パターンです。しかしペロー童話の「眠れる森の美女」とグリム童話の「白雪姫」には、実はそのようなシーンはありません。
- 「眠れる森の美女」のお姫様の目覚め方
- ペロー童話:王子様がひざまずくと目覚める
- ディズニーアニメ:王子様がキスすると目覚める
- 「白雪姫」のお姫様の目覚め方
- グリム童話:お姫様の喉につまっていた毒リンゴを吐き出して目覚める
- ディズニーアニメ:王子様がキスすると目覚める
一方でお姫様が王子様のキスで目覚めるという童話もあります。グリム童話の「いばら姫」(「眠れる森の美女」とほとんど同じ話)などがそうです。ですから現在「眠れる森の美女」と呼ばれ「お姫様が王子様のキスで目覚める」話は、「お姫様が王子様のキスで目覚める」点では「眠れる森の美女」というより「いばら姫」に近いのです。
「白雪姫」でお姫様が王子様のキスで目覚めるようにしたのがディズニーであるかは定かではありません。またディズニーアニメが偽物という訳ではありません。ペローもグリムもそれ以前にあった口承童話を改変して発表しています。ディズニーアニメをもはや口承童話ということはできないものの、童話はその時代の世相を反映して改変されていくものなのです。
少なくとも上記サイトさんで挙げられている類似点のうち「ヒーロー登場時のヒロインの様子:ヒーローのキスによって目覚める」は、19世紀以降に改変されて生まれたものです。童話の類似点を挙げて、似ているかどうかを判断するならば、童話が改変されてきたことを考慮しなければいけません。
- 一応、参考にした本。
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