谷川流作品とネコと妹と

 タイトルは「涼宮ハルヒと妹猫」にしようかと思ったのですが、見出しは派手なほうがウケがいいのでついカッとなってやると後で反省するそうなので、地味にいたしました。

  • 妹について

 さて、「ハルヒ」に関する有名な論説に『涼宮ハルヒの憂鬱』における少女の創造力というものがあるのですが、私はこれを読んでとあることに気付きました。それは主人公の妹に関することです。「『涼宮ハルヒの憂鬱』における少女の創造力」のキョン妹に関する部分は妄想全開という感じなのですが、その部分は

 キョンと妹の関係に目を向けるとき、著者のもう一つの作品『学校を出よう!』第1巻が兄妹の喪失をめぐる物語であることの意味が、そこから新たに浮かび上がってくるように思われるのです。

というところで終わっています。けれども、谷川流さんの他の作品に目を向けると、そこにもう少し明確な形を見出すことができそうなのです。

 谷川流さんには「涼宮ハルヒ」と「学校を出よう!」と共にデビュー作といって良いシリーズがもう一つあります。「電撃!!イージス5」です。

電撃!!イージス5〈Act.2〉 (電撃文庫)

電撃!!イージス5〈Act.2〉 (電撃文庫)

この「イージス5」の主人公は逆瀬川秀明という少年なのですが彼にも李里という妹がいます。そしてその次のシリーズが「ボクのセカイをまもるヒト」ですが、

この作品の主人公朝凪巽にも猫子という妹(正確には妹型ロボット)が登場します。つまり谷川流さんの既刊4シリーズには、主人公にもれなく妹がいるのです。*1

  • ネコについて

 ここで話はあまり脈絡が感じられないままネコへと移ります。それは、私が谷川流さんの作品を読み返していて、「主人公の妹」の近くにネコの影がちらつくように感じることが何度かあったからです。いい加減文章がダラダラとなってきたので、ここで表にまとめてみましょう。

作品 主人公 妹的キャラ ネコ的キャラ
涼宮ハルヒ キョン キョン妹 シャミセン
学校を出よう! 高崎佳由季 高崎春奈、若菜 ?
学校を出よう! 神田健一郎 海老原ミツキ クロフ
学校を出よう! 光明寺茉衣子 蒼ノ木類 蒼ノ木類とネコ
電撃!! イージス5 逆瀬川秀明 逆瀬川李里 逆瀬川家のネコ(多数)
絶望系 閉じられた世界 杵築 烏衣カミナ?ミワ? ?
ボクのセカイをまもるヒト 朝凪巽 猫子 猫子

 「学校を出よう!」は主人公が一定しない作品ですが、ここでは高崎佳由季、神田、茉衣子の3人としてみました。

 こうして見ると、ちょっと弱いですが、「イージス5」と「絶望系」以外では妹的キャラとネコがセットになる傾向が見られると思います。ネコと話すことができる蒼ノ木類は外見もネコっぽいです*2し、猫子ではついにネコと妹が合体してしまいます。谷川流さんに一体なにがあったのでしょう*3

  • 鏡の中のもう一人の自分について

 ところで上の表で「絶望系」の妹的キャラとしてミワとともにカミナを挙げましたが、これには理由があります。カミナが

あなたと兄妹になるために


「絶望系 閉じられた世界」205ページ

と言っているからです。このカミナも興味深いキャラクターでして、

鏡が反対の物を映すなら、鏡の向こうのわたしは私と正反対の心を持っているはずでしょう。わたしが絶望するほど、鏡に映るわたしは幸せになっている。そんなわたしを、わたしは認めることができないの


「絶望系 閉じられた世界」212ページ

などという台詞もありますが、これは

もともとこの双子姉妹はお互いにお互いを自分だと思って自我を同一視していた気配があるから、若菜は分身の肉体的消滅を鏡がなくなった程度にしか思っていなかったのかもしれない。


学校を出よう!」13ページ

に通じるものがあります。もっともこれは妹的キャラに特有なものではないようです。「学校を出よう!」には次のようなシーンもあるのですから。

 二人の茉衣子は、最後にじっくりとお互いの姿を脳裏に刻んだ。これは鏡ではなく、自分そのものだ。鏡の中の自分はやはり虚像でしかなく、虚像は実像とは違う。いま、茉衣子たちはそこに自分を見ていた。


学校を出よう!3」281ページ

*1:妹がいるということは特に珍しくはないので、ここから意味を見出すことは難しいかも知れません。

*2:単にイラストレーターさんの趣味かも知れません。

*3:あとがきによると谷川流さんがネコを飼っているのは確かなようです