メモ-通過儀礼譚としての「私の男」
ネタバレ、あります。
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本
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- 桜庭一樹さんの「私の男」は、「地方都市の少女が大都市に出ていく物語についてのメモ」で挙げたストーリー構造を持つ作品群(仮称「地方都市シリーズ」)の総決算と呼べる作品ではないかと思います。
- 「人身御供論」を参考に、女性の通過儀礼譚として、民話「猿聟入(さるむこいり)」と比較。
- 作者: 大塚英志,FISCO
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2002/07/21
- メディア: 文庫
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舞台 | 猿聟入 | 私の男 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | 生家 →娘が人身御供として猿に差し出される |
竹中家(奥尻) →花が震災孤児となり大塩、淳悟に引き取られる |
共同体からの「分離」段階。 猿=最初の求愛者=淳悟 |
2 | 猿の家 →姫が猿を殺害→姥に拾われ隠れて生活 |
淳悟の家(網走) →花が大塩を殺害→逃避行 |
「移行」段階。 姥=後見人=大塩 |
3 | 姥の家 →長者の息子と会う→結婚 |
淳悟の家(東京) →美郎と会う→結婚 |
「移行」段階。 長者の息子=二度目の求愛者=美郎 |
4 | 長者の家 | 美郎の家(東京) | 共同体への「再統合」段階。 |
-
- 「猿聟入」では「最初の求愛者」である猿が殺害されて「後見人」の姥の元に移動する。
- 対して「私の男」では「後見人」である大塩が殺害されて「最初の求愛者」である淳悟が「後見人」を兼ねる。
- 花が「猿聟入」の娘のように「最初の求愛者」の淳悟ではなく「後見人」の大塩を選んでいたら、花はその後至極真っ当な人生を歩んだと想像できる。
-
- 花にとっての「移行対象」は大塩なのか淳悟なのか判然としないがいずれにしろ異性である。
- 桜庭作品の少女は同性を移行対象にすることが多かった(「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」などに見られる「赤×ピンク」な関係)。しかし「荒野の恋」「少女七竃」あたりから異性を移行対象にし始めたのかも知れない。(ただし「推定少女」「砂糖菓子〜」の少女の片方が一人称「ぼく」を使うことに意味を見出すこともできるかも知れない。)
- 蛇足:楼崎一郎に淳悟の原型を見る
- 作者: 桜庭一樹,ヤスダスズヒト
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2002/01
- メディア: 文庫
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- 桜庭さんご本人のインタビュー記事によると淳悟は「砂糖菓子〜」の海野雅愛からイメージを膨らませたキャラクターだそうです。が、しかし。私は「Girl's Guard」の楼崎一郎刑事こそ淳悟の先祖ではないかと思います。例えば……ヨレヨレなところとか(笑)。以下、楼崎一郎が淳悟を連想させる場面。
切れ長のその瞳――のんきそうにも、逆に抜け目なさそうにも見えて、どうもとらえどころがない
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P11
一郎に笑顔が戻る。ゆっくり顔を離し、いい子だ、というように大きな手を伸ばして、マリの赤毛をワサワサ撫でる。
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P21
無意識にマリの頭に手を伸ばして赤毛をくしゃくしゃにする。
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P22
「二十五歳ですよ。一郎君と同い年です」
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P45
カウンターに隣り合わせに座った一郎が、マリの赤毛をぐりぐりと撫でた。
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P128
一郎はハンドルから手を離して、マリに向き直り――
両手でマリの赤毛をわしゃわしゃと撫でた。
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P176
マリは立ち上がると一郎にグラスを渡し、ビールをついだ。
一郎はものも言わずにビールを飲み干した。マリが目をパチクリして二杯目をつぐ。
それも飲み干してから、グラスを置き、マリの頭をくしゃくしゃと撫でる。
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P198
「おう。じゃーな、マリ。俺の赤い花」
桜庭一樹「Girl's Guard 君の歌は僕の歌」P213