その昔、ファンタジーブームというものがあった

giolum2005-10-26


 なんだかあちらこちらで「ライトノベルブーム」はどうなるのかということが語られておりますが、私は流行が苦手なのでちょっと古い話をいたします。年寄りの思い出話につきあうと思って聞いてくださいませ。

 ネット上では最近「ライトノベル」という呼び方がかなり広まっていますが、同じものが書店、ネット書店、古書店で「ファンタジー文庫」あるいは単に「ファンタジー」と分類されているのもよく見かけます。オンラインでは「Yahoo!ブックス」や「ジュンク堂書店」などがそうですね。どうしてこんなことになっているかと申しますと、今現在ライトノベルと呼ばれている作品群では、一昔前までファンタジーが主流だったからです。

 今日ライトノベルと呼ばれている作品群でファンタジーが主流だったのは1980年代半ば〜90年代半ば頃です。人によって諸説あるでしょうが大きな違いはないでしょう。1980年代半ばというのはライトノベルに限らずTRPGやコンピューター用のRPGなどで異世界ファンタジーが広く受け入れられるようになった時期です。当時は「ファンタジーブームが来た」と言われていました。

 1980年代終わりからはファンタジー色を売りにしたレーベルが次々と出ました。ぱっと思い出せるだけでも次のものがあります。

 1988年創刊の角川スニーカー文庫も看板作品は「ロードス島戦記」「フォーチュン・クエスト」などのファンタジーでしたし、コバルト文庫でも「破妖の剣」「ハイスクールオーラバスター」といったファンタジー作品が当時の売れ筋でした。またTRPG関連本レーベルとして富士見ドラゴンブック、角川スニーカーG文庫、電撃ゲーム文庫*1などが創刊されました。

 しかし数年もすると「ファンタジーブームは終わった」「いやまだこれからだ」といった論争が起こるようになりました。けれどもそう言っている内が花でして、さらに数年すると「ファンタジーブーム」という言葉自体が聞かれなくなりました。*2ファンタジー色を売りにしたレーベルも、出版社倒産や方針転換によるリニューアルなどで1つ2つと姿を消していきました。

 そうした中で富士見ファンタジア文庫が、少年向けライトノベルのトップの地位を電撃文庫に奪われたとはいえ、路線を柔軟に変えながらいまなお大手レーベルとして存続しているのは凄いことだと思います。C★NOVELS FANTASIAも「中央公論社」から「中央公論新社」に変わりましたがしぶとく生き残りました。*3

 それで、こんな昔話で何が言いたいかと申しますと、ライトノベルの歴史というのはブームと破局の歴史だろうということです。長く続いているコバルト文庫ソノラマ文庫にしても30年間同じ方向性だった訳ではなく、コバルト・ピンキーやソノラマ文庫NEXTといった試行錯誤・紆余曲折があったのです。

 今「ライトノベルブームが終わったらどうなってしまうのだろう」「レーベルの乱立が破局を招くのではないか」ということがよく話題になっておりますが、そもそも現在あるライトノベルは真っ直ぐに伸びてできたのではありません。かつて無数に伸びた枝葉の生き残りなのです。たとえレーベルが次々と枯れたとしても、また新しい芽が出てくるでしょう。そのしぶとさ、たくましさ、ずうずうしさが現在便宜上ライトノベルと呼ばれている作品群の魅力なんです。

*1:現在の電撃ゲーム文庫の前に存在したTRPG関連本レーベルです。

*2:近年の「ハリ・ポタ」や「ロード・オブ・ザ・リング」のヒットを指して「ファンタジーブーム」と言うこともありますけれども。

*3:スーパーファンタジー文庫はスーパーダッシュ文庫の前身、ログアウト冒険文庫はファミ通文庫の前身と言えなくもありません。