千匹皮(千枚皮)にネコ耳属性のルーツはあるか
千匹皮はグリム童話最高の萌えキャラだと思うんですよ。千匹の動物の皮を身にまとってる美少女っつーのは、現代の猫耳とかにも通じると思わね? しかも近親相姦キャラだし。
私が千匹皮(千枚皮)を読んだ時にそういうことは思いつきませんでした。グリム童話では珍しい近親相姦の話なので強烈に印象には残りましたけれど。ちなみに千匹皮がどういうお話かは次のサイトに詳しいのでご覧下さい。
「円環伝承」よりグリム童話「千匹皮」
http://enkan.fc2web.com/minwa/cinderella/10.html#5
で、「千匹皮」についての解釈が載っている本がないかと自室の本棚から探してきたら、2冊ありました。
大人もぞっとする初版『グリム童話』―ずっと隠されてきた残酷、性愛、狂気、戦慄の世界 (王様文庫)
- 作者: 由良弥生
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2002/10/01
- メディア: 文庫
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新版 白雪姫コンプレックス―コロサレヤ・チャイルドの心の中は…
- 作者: 佐藤紀子
- 出版社/メーカー: 金子書房
- 発売日: 1995/05/01
- メディア: 単行本
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まず由良弥生さんの「大人もぞっとする初版『グリム童話』」の解釈から行って見ましょう〜。
王女は一度身を隠し、別の人間として現れることで、近親相姦の事実を隠蔽しようと考えたというのです。
毛皮を着ることで、その動物が持っていた力を手に入れることができる、そんな信仰があるといいます。「千匹」分の力を得た王女は、力を超えた「魔」力に魅入られていたのかもしれません。
要は「千匹皮=変身マジックアイテム」という解釈ですね。
しかし、佐藤紀子さんの「白雪姫コンプレックス」での解釈は全く異なります。
<動物の毛皮、または灰で全身を覆われたおぞましく汚れた姿>とは、近親姦により、「もう、自分は全身が汚れてしまった。父も自分も、もう人間だか、けだものだか、わからなくなってしまった」という、少女の混乱や、バラバラに破壊された心、心的外傷を受けたさまを、象徴しているようにみなされます。
佐藤紀子「白雪姫コンプレックス」167ページ
と、精神分析から「千匹皮=心的外傷を視覚化したもの」と解釈しています。ただ、精神分析というのは分析家によって見解が異なる性質のものですから、上記が精神分析による統一した解釈という訳ではありません。
という訳ですが、どうでしょう?ネコ耳萌えにつながるでしょうか?(笑)
え?ネコ耳についての解釈もないと比較にならないって?いやでも、それはさすがにちょっと知りません(汗)。参考までに東浩紀さんの「動物化するポストモダン」では
でじこは猫耳をつけて「そうだにょ」「疲れたにょ」と話すのだが、それは猫耳や「にょ」そのものが直接に魅力的だからなのではなく、猫耳が萌え要素で、特徴ある語尾もまた萌え要素だからであり、さらに正確に言えば、九〇年代のオタクたちがそれを要素だと認定し、そしていまやその構造全体が自覚されてしまっているからなのである。
東浩紀「動物化するポストモダン」70ページ
として、「萌え」の本質は自覚的な認定作業であって、要素の内容は重要ではないとしています。これはこれで正しいと私も思いますが、いきなりこの考えまで進んでしまっては「ネコ耳」そのものの魅力がないことになってしまうのでちょっとさみしいですね。
いや、違いますか。所詮童話というものは時代と共に解釈が変わってきたものなのですから、「千匹皮」を敢えて現代的に萌え要素に分解して消費することそのものに意味があるのかな?人はなぜ萌えるのか?そこに萌えがあるからだ!ってそれこそ思考停止&動物化?よく分からなくなってきました。もう寝ます。あとはもっと頭の切れる人が考えて下さい。(爆)
- 余談:千匹皮とシンデレラについて
ところでこのグリム童話の「千匹皮」、有名なペロー童話の「シンデレラ」(≒グリム童話の「灰かぶり」)の原型をよく留めている話のようです。「千匹皮」と「シンデレラ」は今ではだいぶ違う話になってしまっていますが、初版グリム童話の「千匹皮」では王女が千匹皮の上から灰をかぶったり顔にすすを塗っていますし、シンデレラの原型といわれるイタリアの童話「灰だらけのメス猫」
「円環伝承」よりバジーレ「灰だらけのメス猫」
http://enkan.fc2web.com/minwa/cinderella/29.html#1
では王女の行動が千匹皮とシンデレラの両方に良く似ています。ちなみに
イタリアのバジーレの「灰だらけのメス猫 La Gatta Cenerentola」となり、簡略化してペローのCendrillonになり、イギリスのCinderellaになったというのだ。
「円環伝承」より「灰まみれの尻」
http://enkan.fc2web.com/minwa/cinderella/column.html#3
だそうですから、「千匹皮」から「ネコ耳」を連想されたmizunotoriさんはあながち間違っていないのかも知れません。(笑)