「ボトルネック」を読み解く役者不足な試みのためのメモ
「行きて帰りし物語」という類型に当てはめて『ボトルネック』を読み解こうとするなら、どうしても見逃せないキーアイテムがある。それは往復きっぷ*1である。主人公は金沢駅で芦原温泉駅までの往復きっぷを買い、帰りのきっぷを財布に入れたまま別世界の金沢へと飛ばされる。ここに何か哲学的な意味があるのではないかと考えられる*2。
一本足の蛸-『ボトルネック』を読み解く試みのための無用なメモ
http://d.hatena.ne.jp/trivial/20061003/1159886237
リョウの動きにも注目した方が良いということでしょうか。
- 復路きっぷについて
可能世界に飛ばされた1日目と2日目では復路きっぷは無駄なものになっていました。3日目ではきっぷは期限が切れて無効になってしまいます。そして元の世界に戻ってきても日付は3日目のままなのでやはりきっぷは無効。リョウは恐らく金沢に帰れません。これらのことが意味するものは何か。
仮にリョウが可能世界の1日目か2日目で東尋坊に行っていたら復路きっぷを有効に使うことができました。しかし元の世界に戻ってきた時には有効なきっぷを持っていないので、やはり金沢に帰れません。するとリョウは1日目か2日目で復路きっぷを使わない状態で元の世界に戻ってこない限り、金沢に帰れません。
しかし1日目か2日目で復路きっぷを使わないということは、1日目か2日目に東尋坊に行かないということであります。リョウが元の世界に戻ってきた必要条件が何なのか私にはイマイチ分かっていないのですが、可能世界で東尋坊に行ったことが可能世界から脱出できた条件の一つであるとすると、リョウは物語の最初から元の世界において金沢に戻ることは不可能だったのかも知れません。
- メールについて
リョウがラストで母親から受け取るメールが、リョウに何をさせるのか、作中では明確に書いてありません。が、恐らくリョウが「失望」を選択する後押しになるのでしょう。このメールもリョウが金沢に戻れないことを暗示させるものと言えそうです。
- 地方都市に戻れないことについて
「さよなら妖精」「犬はどこだ」の主人公は通過儀礼に失敗しているとはいえ、地方都市に戻ることができています。守屋(と太刀洗)はマーヤを弔ったあと地方都市に戻るのでしょうし*1、紺屋は地方都市で生計を立てています。しかしリョウは地方都市に戻れそう(戻りそう)にありません。この点で「ボトルネック」は「さよなら妖精」「犬はどこだ」と大きく異なっているように思います。
とは言うものの、通過儀礼に失敗してかつ地方都市にも戻れないという物語があっても別におかしくありません。桜庭一樹さんの「少女には向かない職業」はそうした作品だと考えていますし。
それからノゾミは擬似人格だから移行対象としての機能を果たせないのかなぁ、などととりとめもなく考えています。大ハズレかも知れませんが。
- で、何が言いたいのか
済みませぬ。まだまだ全然分かっていなくて、考えがまとまっていない、ということです。