地方都市にきっといるよ、現実的な女のコ

 桜庭一樹さんが人気を獲得する前の作品「竹田くんの恋人」読了。この作品の評価はあまり高くないようであります。しかし私はこの「竹田くんの恋人」が、「赤×ピンク」「推定少女」以降の桜庭一樹さんの作品(「GOSICK」を除く)を読み解く上で重要なヒントを与えてくれるものではないかと考えます。

 以下の文章は「竹田くんの恋人」「赤×ピンク」「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「少女には向かない職業」「ブルースカイ」「少女七竈と七人の可愛そうな大人」等に関して、軽度のネタバレを含みます。


  • 「竹田くんの恋人」と他の作品との共通点
  • 「世界の果て」と「地方都市」

 しかし「竹田くんの恋人」と「赤×ピンク」「推定少女」以降の作品では異なる点も多々あります。そのうちの一つが少女たちの出身地です。

 「竹田くんの恋人」のヒロインたちは「ワールズエンド・フェアリーテイル」という作中ゲームのキャラクターです。ゲームのキャッチコピーは「世界の果てにきっといるよ、貴方の理想の女のコ」。

 一方、「赤×ピンク」「推定少女」以降の作品の少女たちはいずれも地方都市の出身です。

 ところで、桜庭一樹さんはゲームシナリオライターでもあります。

推定少女」や「砂糖菓子〜」の路線は「書いてみませんか」という話をいただいているので、自分としては合計で7本やりたいと思っています。
 女の子のキャラクターを7人作っていて、それをめぐってさまざまな物語が展開するという感じですね。
(中略)
興味ある方はぜひコンプリートしていただけると嬉しいです。


宝島社「このライトノベル作家がすごい!」110ページ「7人の女の子をめぐる7つの物語」

 桜庭さん曰く「マルチエンドを全て含めて1つの話を作りたい」「それがゲーム的にとらえられるかも知れません」


京フェスリアル・フィクションとは何か?」レポ
http://d.hatena.ne.jp/giolum/20051012#1129053212

という発言もされています。また「竹田くんの恋人」では

    • 水菜とキラシャンドラで、物語の結末が異なる
    • 大家さんの物語→水菜の物語→由乃の物語という反復を暗示させている

という分岐ゲームならではの展開も描かれています。

 これらのことを考えると「竹田くんの恋人」と、「推定少女」以降の「7人の女の子をめぐる7つの物語」とは、見た目が違うところは多々あっても、部分的には同じアイデアを基にしているのではないかと思えてくるのです。すなわち分岐ゲーム、美少女ゲーム的な物語の複数性を、小説の中に取り込んでいくということです。

  • 「世界の果て」を「地方都市」に置き換えてみる

 試しに、ちょっと悪ふざけをしてみます。「竹田くんの恋人」の作中ゲーム「ワールズエンド・フェアリーテイル」において「世界の果て」を「地方都市」に置き換えてみるのです。

    • 「地方都市にきっといるよ、貴方の理想の女のコ」

   キャラは次の通り


「竹田くんの恋人」と「推定少女」以降では視点の置き方もシリアス度も全く違うので少々無理はあります。が、「推定少女」以降の作品がもし小説ではなく美少女ゲームという媒体で発表されていたなら、これに近い感じのものになったのではないかとも思います。

 そして(最初の方で書いてしまいましたが)「世界の果て」と「地方都市」がなんとか置き換え可能なのは、両方とも「その中にいる少女にとっては閉塞的に感じられる空間」であるからではないか、と考える次第。

  • 追記、というか結論

 うーん、読み返してみると、言いたいことがまったく書けていません(汗)。逆に考えたほうが説得力があったかな。「竹田くんの恋人」のシチュエーションを「推定少女」以降の作品に当てはめてみるとか。

 桜庭一樹さんの作品に登場する「少女」というのは、美少女ゲームに出てくるような「鑑賞される立場」にいる都合の良いキャラクターではないんですよね。もっと自律したキャラクターであり、はっきりと自分の都合、自分の視点を持っています。それを少年視点が基本である美少女ゲームに当てはめてしまった「竹田くんの恋人」に無理があるし、見方を変えればその無理さ、ねじれは、桜庭一樹さんの作品だからこそ出てきたものであると言えます。そのねじれをうまく解消し、完全に少女視点にしたのが「推定少女」以降の作品ではないでしょうか。

 書いていたら考えがまとまってきました。

推定少女」以降の「7人の女の子をめぐる7つの物語」は、「シナリオ分岐型ゲームを参考に、分岐される少女側の視点から書かれた作品群」という一面を持っていると考えます。


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