「ゲーム=虚構」は地方都市に内包されるものかも知れない

赤朽葉家の伝説」について色々書こうと思って調べているうちに次のような文を見つけました。

自分が育ったのが鳥取の、中国山脈と日本海にはさまれた狭い町なんです。ゲームの画面に出てくるつくられた町がありますよね。道があるところだけに建物があって、その外側には何もない。町と町のあいだが空白になっていて、どこにも行けないみたいなイメージが昔からありました。


Yahoo!ブックス-インタビュー-桜庭一樹

 これを見て真っ先に連想したのは「赤朽葉家の伝説」ではなく、ましてや「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」でもなく、「竹田くんの恋人」でした。

 やっぱり「竹田くんの恋人」の冒頭に登場するゲーム内の砂漠は鳥取砂丘だったんだ!(←その妄想はもう捨てろ。)

「竹田くんの恋人」は作中のゲーム世界を地方都市に置き換えると「推定少女」と「少女七竃と七人の可愛そうな大人」を足して2で割ったような話になります。無論、細部の演出や全体の完成度は全然違いますが物語の構造は非常に似ています。また「竹田くんの恋人」のアパートの大家さんは「荒野の恋」の蓉子、「赤朽葉家の伝説」の万葉へと繋がっていくキャラクターであると思います。

「竹田くんの恋人」は少年視点の「美少女ゲームのキャラクターがやってきた」という話ではなく、少女視点の「閉塞したゲームのような空間に閉じ込められた少女が、そこを打ち破って外部へ出て行く」話として捉えるべきなのではないか? 「推定少女」よりも前に「地方都市シリーズ」の舞台装置は「竹田くんの恋人」で揃っていたのではないか? と思うのであります。ただし「竹田くんの恋人」ではその舞台装置はまだうまく歯車がかみ合っていなかったようですが。

 そして「推定少女」や「少女には向かない職業」を読んだときは大塚英志さんの影響で「ゲーム世界=虚構=地方都市の外部にあって外部の機能を果たさないもの」と考えていたのですが、「竹田くんの恋人」「赤朽葉家の伝説」それに上記のインタビューを読んで少々考えが変わりました。桜庭一樹さんの作品では「ゲーム世界=虚構=地方都市の内部にあるもの」になるのではないでしょうか。

 何が言いたいのか自分でもよく分からなくなってきましたが、えーつまりは(汗)、桜庭作品では地方都市とゲーム世界の間の行き来は重要ではなく、「ゲーム=虚構からの脱出」が重要である、それも地方都市からの脱出と同じくらい重要であるのではないかということです。

    • 虚構から抜け出せなかったキャラクター
    • 虚構から抜け出していったキャラクター
      • 水菜(竹田くんの恋人)
      • 大家さん(竹田くんの恋人)
      • まゆ(赤×ピンク):檻からの脱出
      • ミーコ(赤×ピンク):SM女王の物語からの脱出


 キャラクターを挙げてみるとこんな感じ。恐らくあらや抜けや事実誤認があるので、追々修正していければ良いと思います。

 そういえば「赤×ピンク」の皐月も暴走族でしたね。あ、「赤朽葉家の伝説」で山に行くシーンは「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」に似ているし、「恋のバカンス」と「人魚の骨」もなんとなく似てるなぁ。「赤朽葉家」についてはまだまだ考えることがありそうです。

  • 余談ですが

 Webミステリーズ!の「桜庭一樹 読書日記」ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」が好きな本として挙がっていますね。

中世イタリアの修道院で起きた連続殺人事件。事件の秘密は知の宝庫ともいうべき迷宮の図書館にあるらしい。


東京創元社「薔薇の名前」紹介ページより。

GOSICK」を読んだときに「聖マルグリット学園の大図書館って『薔薇の名前』のオマージュかな?」と思ったのですが、やはりその可能性は大きそうです。

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉